ファンタジーな100のお題
53 真珠一粒
DDA様(E-No.344PL)作
2004/09


真珠一粒
〔執筆者あとがき〕


真珠一粒

夏の暑さも和らぎ、ファンブラーズが滞在するフロースパーにも秋がやってきた。
窓の外では蜻蛉が飛びかい、蝉の代わりに鈴虫が鳴いている。

そんなある日、ローラは日課になった散歩に出ようとしていた。
ファンブラーズが拠点にしている「涼風亭」を出ようとすると、後ろからキャロラインに声をかけられた。
「ローラ。これから散歩?」
料理をしていたのか、厨房から出てきたようだ。

「はいですぅ。いつもみたいにぃ、その辺をぶらぶら〜っとしようかなぁってぇ。」
振りかえり、にこやかに返事をすると、キャロラインは手にしているバスケットを軽く振っていた。
「ふふ。それならさ、これからピクニックに行かない? お弁当も作ったし、どう?」
「にゃあ〜、それは良いですねぇ。どこに行くんですかぁ?」
ローラが嬉しそうに聞くと、キャロラインの表情が強張った。
「う、き、決めてない……ローラ、どこか良い場所知らない?」

キャロラインは、地図があっても意味をなさないほどの方向音痴だ。
それでも、最近どうにか市場までの道のりは覚えられたのだが、今だ一人ではその他の場所には行けない。――街の外など問題外だ。

「う〜ん……あ、それならぁ、街外れにぃ湖があるらしいんですぅ。
 わたしぃ、そこは行った事がないのでぇ、行ってみたいと思ってたんですよぉ〜。
 そこはどうですかぁ?」
「湖か……うん、そこにしよう!場所はわかるの?」
「もちろんですぅ! ……あ、他のみんなはぁ、誘わないんですかぁ?」
「それがね、みんな出かけたみたいなんだ。
 シローさんは、たぶんリンファンさんの所か、訓練。
 スラーヴァはお友達の所、かな? ヴィヴィオくんは市場だと思う。」
久々の休日だからだろう、他の面々も思い思いに過ごしているようだ。
「う〜、残念ですが、仕方無いですねぇ……では、出発ですぅ!」
かくして、二人はピクニックへと出掛けるのであった。



フロースパーから歩いて二十分くらいたっただろうか?
目の前に森が見えて来た。
「ねぇ、ローラ……本当にここなの?」
キャロラインが不安がるのも無理はない。
目の前の森には、獣道にしか見えないあぜ道があるだけで、周りには鬱葱と草が生い茂っている。
「はいですぅ。ここはぁ、木こりのおじさんに聞いたんですぅ。
 この道を行けばぁ、すぐに見えてくるはずですぅ。」
そう言うと、ローラはそのあぜ道を入って行く。
「え、あ、ちょ、ちょっと待って〜」
迷う事は無いだろうが、こんな所で一人になるのは、流石に恐い。
おまけに、一人では帰れるかどうか不安だ。
キャロラインは、しぶしぶついて行く事にした。

しばらく歩くと、目の前に広い野原に出た。
「あ〜、キャロラインちゃ〜ん。着きましたよぉ! ……うっわ〜〜!」
ローラが感嘆の声を上げると、キャロラインも進み出る。
「わ〜……すごく綺麗……」
その野原には、綺麗な湖が広がっていた。
水は澄んでおり、底の方で魚達が楽しそうに泳いでいるのが見える。
「ふわ〜、本当にすごいですねぇ……
 あ、この湖ってぇ、私達の街の川に繋がってるみたいですねぇ。」
見ると、森を横切る様に小川が流れている。
ローラの言う通り、フロースパーまで流れているのだろう。
「来て良かった……ねえ、あの木の下でお昼にしようか?」
湖のほとりにある、一本の大きな木を指差し、キャロラインは言った。
「そうですねぇ。わたしぃ、もうおなかペコペコですぅ。」



座るためのシートを敷き、バスケットの中身を広げる。
「はい、ローラ。今日はサンドイッチとオレンジジュース、あと野菜スティックだよ。」
「はう〜、すごいですぅ。」
目の前のご馳走に、感嘆の声を上げる。
「ふふふ、そうでもないよ。それじゃあ、食べよっか?」
「はいですぅ。」
コップにジュースを注ぎ終えると、二人は手を合わせる。
「「いただきます」ですぅ」

「あう〜。おいしですぅ。」
「そう? ありがとう。」
ローラは二つ目のサンドイッチに手を伸ばし、感想を述べる。
「うう、わたしもぉ、早く料理を作れるようになりたいですぅ……」
ローラの料理は、お世辞にも上手いとは言えない。
菓子類は器用に作ってみせるが、どういうわけか家庭料理となると、てんでダメになる。
教えようとしたキャロラインも、その理由がわからず首を傾げていた。
「焦らなくてもすぐ上手くなるよ。」
「でもでもぉ。練習で作った魚料理をヴィヴィオくんにぃ試食してもらった時ぃ、
 『これ、なんの生き物だ?』って言われたですぅ……」
恐らくヴィヴィオを真似たのか、ヴィヴィオに言われた事を声を低くして話す。
その時の事がよっぽど悔しかったのだろう。その緑の瞳は涙目だ。
「あ、あははは……」
キャロラインはその様子に、思わず苦笑する。

「うう〜。キャロラインちゃん、酷いですぉ。わたしだって頑張ってぇ……あれぇ?」
すると突然、ローラはキャロラインの背後を見る。
「え? な、何!?」
キャロラインは何事かと身を震わせる。
「キャロラインちゃん、ウサギさんですぅ。」
キャロラインが振りかえると、一匹の兎が首を傾げ、手を伸ばせば届くくらいの距離で、こちらを見ていた。
「わ〜、かわいい! おいで、おいで〜。」
手招きをして兎を呼ぶが、首を傾げたままだ。
「お腹でもぉ空いてるんでしょうかぁ?」
「そうなのかな〜? あ、それなら!」
キャロラインは、野菜スティックの中から人参を取りだし、フリフリと振って、兎を呼んでみる。
「あ、来ましたねぇ!」
「うん! あ、手で持って食べてるよ。可愛い〜!」
兎はキャロラインから貰った人参を、両前足で挟みカリカリと食べて始めた。


「はにゃぁ……いい所ですねぇ、ここぉ。」
昼食を終え、ローラはシートに寝転びながら呟いた。
「うん。今度はみんなで来たいね。」
キャロラインもローラを習い、寝転んでいる。
近くでは、先ほどの兎も丸まって寝ている。
「そう……ですねぇ……」
帰ってきたローラの返事は、いつも以上に間延びしていた。
「? ローラ?」
横を見ると、すでにローラはすやすやと寝息を立てていた。
「もう、ローラったら……ふ、ふわ〜あ……」
そんな姿を見ていると、キャロラインも眠くなってきた。
目を閉じると、すぐに夢の世界へと誘われた。

どれくらい眠っていたのだろう?
キャロラインが目を覚ますと、日は傾き、少し肌寒くなってきた。
近くで寝ていた筈の兎の姿も、すでにない。
「ローラ。ローラ。起きなきゃ風邪引いちゃうよ?」
ローラを揺すり起こし、帰り仕度を始める。
「……ふ、ふあ〜ぁ。おひゃようでしゅぅ……」
まだ寝ぼけているらしい。
「ほら、ちゃんと起きて。早く帰らないと、夕ご飯の時間になっちゃうよ?」
「ふえ? もうそんな時間ですかぁ?」
「うん。ほら、帰ろう?」
「うにぃ、わかったですぅ……」
眠たい目を擦りながら、ローラは歩き始めた。



涼風亭に着いた頃には、夕暮れを迎えていた。
中に入ると、スラーヴァが宿の手伝いをしていた。
「やあ、二人ともおかえり。」
いつもの優しい笑顔で二人を出迎えた。
「ただいま、スラーヴァ。」
「ただいまですぅ。」
「もうすぐ夕飯だから、荷物を置いたらすぐに降りておいで。」
テーブルを拭き終えたスラーヴァは、二人にそう告げる。
「わかったですぅ。キャロラインちゃん、行きましょ〜。」
「うん。……あ、スラーヴァ! ちょっと……」
ローラに言われ部屋に戻ろうとするが、何かを思い出しスラーヴァを手招きする。
「うん?なんだい?」
「あのね…」
スラーヴァにそっと耳打ちするキャロライン。
話し終えると、スラーヴァは「……なっ!」と声を発し、赤面する。
「ふふふ。参考にしてね♪ それじゃ、後でね。」
キャロラインは悪戯な笑みを浮かべ、そのまま手を振り部屋に戻る。
「遅かったですねぇ。どうかしたんですかぁ?」
部屋に戻ると、心配そうにローラが尋ねてきた。
「うん? な〜いしょ♪」
キャロラインはクスっと笑って、そう答えるだけだった。


その夜。皆が寝静まった頃。
ローラは日記を書き終え、机の片隅に置いていた杖を手にした。
「……変身! ですぅ。」
小声でそう言うと、フリフリのドレスに身を包み、身の丈以上の杖を手にしていた。
「うう、ミルちゃんに言われた通りにしてるんですがぁ、やっぱり恥ずかしいですぅ……」
ミルちゃん――冒険者ギルドで、水晶を探していた少女のことだ。
その彼女に何を吹き込まれたが知らないが、ウィッチの魔法を使うときは、この姿にローラはなっていた。
そして、そっと窓を開け、杖にまたがり外へと飛び出した。
――昼間に行った、あの湖に向かって。

「あ、やっぱりですぅ。」
雲一つない空を見上げると、満月が夜を淡く照らし出している。
しばらく空を飛んでいると、あの湖付近に到着する。
そして、ローラは湖を見下ろした。
「うわ〜〜! 予想以上に綺麗ですぅ!」
その見下ろした湖には、月が映し出されていた。

―――それはまるで、白く輝く一粒の真珠の様に。


〔執筆者あとがき〕

ローラ&キャロラインのお出掛けシリーズの第一段です。
初めてSSと言う物を書きましたが、難しいですね。(−−;
拙い文章ですが、楽しんでいただけたでしょうか?

この「真珠一粒」というお題。かなり苦戦しました。
まず、「真珠ネタ」が出てこない。(笑)
それで、「真珠」で連想したのが、「綺麗な満月」。
これが頭に浮んだので、一気に書き上げましたが、上手く表現できているでしょうか?

この中に出てきた湖ですが、本当はキャロラインが迷子になる場所の予定でした。
(キャラBBS・「小夜更けて、男たちの戦いが始まる」を参照のこと)
でも、没になり、このSSに登場となりました。

ちなみに、キャロラインがスラーヴァに耳打ちした内容ですが、その内、明らかになります。どこでなるかは内緒です♪
(それはAkiRaさん・ぼんちゃん。・DDAだけが知っているw)

(管理人注:このあとがきは、2004年9月に書かれたものです)