ファンタジーな100のお題
25
AkiRa(E-No.633PL)作
2004/04


〔執筆者あとがき〕



「――手続きはこれで完了です。
 今日から、冒険者として頑張ってくださいね」
書類のチェックを一通り終えると、事務官は承認の印をそれに押した。
続いて顔を上げると、流れるような口調でスラーヴァに言う。
「あそこの手前がパーティメンバー募集用の掲示板になっています。
 特に規定はありませんので、ご自由に貼り出していただいて構いません。
 あと、左手の奥は訓練所に繋がっていますので」
「ありがとう」
説明をざっと頭にいれると、彼は礼を言って受付を離れた。
まずは、言われた通り掲示板の方へと向かう。
ざっと目を通してみたが、今のところ条件に応えられそうなものは無さそうだ。
次に、訓練所へと足を運ぶことにする。

廊下を歩きながら、スラーヴァはここ数ヶ月の出来事を回想していた。
突然訪れた養父母の死――七年間に渡り愛を教えてくれた人達との永遠の別れは、彼にある一つの決意をさせた。
――冒険者となって人々の助けになること。
教会に育ち、自らも神官の資格を得たスラーヴァにとって、それはごく自然な欲求であったと思う。
何より、今の自分の生は多くの人たちの命によって支えられているのだから。


スラーヴァが扉を開けると、そこは若者たちの熱気で溢れていた。
機械仕掛けの自動人形を相手に模擬戦を行う者、黙々とひたすら自己修練に励む者、不慣れな武器を片手に教官に教えを乞う者――。
ほとんどの新米冒険者が、実際に旅立つ前にここで訓練を積む。
いきなり実戦に出て命を落とす者が少しでも減るよう、ギルドも配慮しているのだろう。

周囲を見渡すうち、彼は一人の冒険者に目を止めた。
茶色がかった短い黒髪、長身の逞しい青年。
鎧は身に着けていないものの、両手には剣をしっかり構えている。
ゆるやかに湾曲した刀身を持つ“シャムシール”と呼ばれるものだ。

彼は二体の自動人形を相手に訓練を行っているようだ。
剣を構え、慎重に敵との距離を測っている。

人形が近づくと、彼は一気に攻勢へと転じた。
俊敏な動きで懐へと飛びこみ、迷いのない斬撃を浴びせる。
人形が二体とも機能を完全に停止するまで、そう時間はかからなかった。

「凄い剣の腕だね」
訓練を終えて大きく息を吐く青年に、スラーヴァは声をかけた。
精悍な顔が、ゆっくりと彼の方を振り向く。
「いや……まだまだ、だな」
静かな声で、青年はそう答えた。
「俺はスタニスラーフ・クナーゼ。今日、冒険者になったばかりなんだ」
「長い名前だな」
スラーヴァの名乗りに、軽く首を傾げる青年。
「スラーヴァでいいよ。家族にはそう呼ばれていたから」
「そうか。俺はグレン。グレン・ピッツバーグ」
「グレン――どうかよろしく」
「ああ」
差し出した右手を、グレンはしっかりと握り返した。


「――じゃあ、あの剣はここで手に入れたものなのかい?」
ギルドを出て、スラーヴァはグレンと肩を並べて街を歩いていた。
話しているうちにすっかり打ち解け、二人はパーティを組むことになったのだ。
「ああ。市場で譲ってもらった。俺の、初めての得物だ」
冒険者ギルドの裏側は、様々な人々が行き交う自由市場となっている。
稀に、自らの鍛えた武具を無料で冒険者たちへ提供する職人なども現れるのだ。
スラーヴァがグレンの腰へと視線を移すと、あの剣が鞘に収まりながら誇らしげに揺れていた。

「こいつで、俺は剣を極めてみせる」
短く、しかしはっきりと。
その言葉には自らへの誓いと決意が溢れている。
真っ直ぐな彼の瞳を見て、スラーヴァは穏やかに微笑した。
「できるさ。きっと、君ならね」
「……ああ」
グレンは、そう答えると少し照れたように笑った。


――この日語られたグレンの夢。それは死の瞬間まで変わる事はなかった。
後に病に倒れ、わずか二十年の生涯を閉じることとなるグレン。
最期まで、彼は自らの剣をしっかりと握りしめ放さなかったという。


〔執筆者あとがき〕

スラーヴァと、彼の亡き親友グレンとの出会いを描いた短編。

グレンに関しては、実際にゲーム中で活動していた時間があまりに短すぎたため、そのキャラクター性についてはむしろ故人となってから確立した部分が大きいと思います。
事前のイメージとしては、寡黙な中にも強い意志と夢を持っている、(プレイヤーが同じ386氏なので)シローとどこか似た部分がある、といった感じでしたが、いざ書いてみるとやたらと前者ばかりが強調されてしまいました。
今となっては、どこにシローとの共通点があるのかすら謎です……。

いかに同じプレイヤーが操るキャラクターでも、やはり一人一人別のパーソナリティを持っています。
安易にそういうことは書くものではないと、少しだけ反省させられた一件でした。